【インタビュー】若くして認知症になった人のために

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ご寄付の活かされ方 2016.4.10

【インタビュー】若くして認知症になった人のために 2011年9月エーザイ株式会社からの寄付により、日本ではまだ社会的な認知や支援が進んでいない「若年性認知症」を支援するファンドを設立しました。

 今回はその助成先のひとつ、若年性認知症の方が「はたらく」場を実現すべく就労支援を行っている特定非営利活動法人エクスクラメーション・スタイルに、お話を伺いました。
●若年性認知症サポートファンドは、京都で若年性認知症の方とその家族の方への理解や支援を促進する取組みを積極的に応援し、「はたらくこと」や「生活の質」の向上に寄与することを目指しています。 これまでに総額300万円を2つのNPO法人による若年性認知症の方や家族を支える活動に助成してきました。
 若年性認知症とは:脳血管や脳細胞の障害で記憶力、判断力が低下し、日常生活に支障をきたす認知症が若年期(18歳~64歳まで)に発症したものを言います。 日本においても数万人の方達が発症していると言われていますが、特に40代や50代といった働き盛りの人たちが発症する事例が多いため、仕事や生活に困難を抱えることで本人はもちろん家族にも大きな影響を及ぼすこととなります。

【話し手/特定非営利活動法人エクスクラメーション・スタイル 板倉さん、徳永さん・ 利用者 中西栄子さんとご家族の河合雅美さん・ 聞き手/京都地域創造基金 田内亜紀子】

〜働くのが楽しくて、生きがいになるような支援を〜
ー若年性認知症の方への支援をはじめたきっかけは?
板倉さん:京都府内の若年性認知症の患者数は500人~800人と言われていますが、これは診断を受けている数で、実際にはその何倍かはいるだろうと言われています。若年性認知症というのは、まだまだ知られていないし、まわりもすぐには気づきません。これは、私たちが以前からサポートに取り組んできた発達障害に似ているんです。僕たちが若年性認知症の方の就労支援のサポートをしようと思ったのは、そこに障害者支援の制度が使えるとわかったことから。介護保険のデイサービスは高齢の方が対象で、若年性認知症の方にはなじまないことが多いんです。いろんな方々のお話を伺ううちに、若年性認知症と診断されたら障害者総合支援法の制度が使えることがわかりました。ただ、これまでその制度を使った前例ほとんどないのです。
 でも隠れたニーズはあると思うし、そういう方々の就労支援は、僕たちが目指す「働きたい」と思える場所をつくる ことと重なります。僕たちの強みであるデザインの力も使って、「ここで働きたい」と思ってもらえる場所をつくろう。働くのが楽しくて、それが生き甲斐になるような支援をしようと考えたのがきっかけです。「行き場所がない」という若年性認知症の方が、働ける力があってそれを生かしたいと思っておられるのなら、自分たちがやってきた就労支 援の取り組みの中でできることがあるのではと、このファンドの助成に手をあげました。 現在は、京都大学医学部付属病院の武地先生の紹介で、お二人の若年性認知症の方が通われています。

-助成金を受ける前と後での変化は?
徳永さん:このファンドがなかったら、私たちのこの取り組み自体実現できていません。当初は今より少人数の事業所でしたが、受け入れのためにパソコンやソフト、机など備品も増やすことができました。利用者さんの要求に我々が応 えることができて、凄く有難く思っています。

板倉さん:費用面のサポート以外にも、基金がご縁でいただいたつながりも有り難かったですね。武地先生がファンドの審査委員をされていて、それがご縁で患者さんにご紹介いただいた。僕たちはどうやって利用者の方を募ったらいいんだろう、っていうところからのスタートでしたから。ミーティングでどうやって事業を進めていったらいいだろうか、って一緒になって考えていただいて。

「自分が必要とされている」と感じられるお手伝い
-利用者の方は、スムーズに馴染まれましたか?
徳永さん:利用者のお一人である中西さんには、まずここでの作業を体験いただいて、武地先生と、どこまでの症状か、記憶力の状態はどうか、などを話し合いながら作業を決めていきました。最初の一か月ほどはお孫さんが書かれた作文を パソコンで入力する作業をされ、徐々に他の作業もはじめて、最近では袋詰めや箱を組み立てる手仕事も取り入れています。作業以外にも、例えば、中西さんは率先して食事の後の片づけをしてくださいます。全員分の食器を洗ったりされるので、最初は「そんなに気を遣わずリラックスしてください」とお願いしていましたが、「できることはやりたい」とのこと。そこで、私たちも視点を切り替えました。今では中西さんがしたいと言われ ることは止めません。止めてしまったらできる作業能力を奪ってしまいかねないので。今通っておられるデイケアの施設長さんともお話ししたのですが、ご本人が「必要とされている」ことを意識し、ある程度の責任感をもって続けていただくのが良いと。受け入れる側としても、中西さんが作業上どこまで力になったか を、その日の最後にお伝えするように心がけています。「自分は必要とされているんだ」「私が今できる範囲のことで も、ここまで役に立っているんだ」と実感していただきたいので。

板倉さん:来ていただくようになって、発達障害などもともとの利用者の方への波及効果も本当に大きいなと感じまし た。全く最初は手探りで、全く別の支援体制を整えなくちゃいけないのかな、と思っていましたが、そうではなかっ た。一緒にやることの相互作用にはびっくりしています。

徳永さん:中西さんはもともと学校の先生をしていて、まわりへの気配りも素晴らしい方です。他の利用者の方にも、人生の先輩から学びましょう、と前もって話をしました。結果、平均年齢30歳代の利用者と、60歳代の若年性認知症の方とが、案外スムーズにコミュニケーションをとられています。自然にお互い認めあっているという感じですね。中西さんに来ていただいて、こちらも良いように活性化していると思います。

朝起きて、行く先があるということが幸せ
-(中西さんご本人に)― ここに通われはじめてどうでしたか?
中西さん:行き先、目的ができましたね。それまで、デイサービスがない日は、やることがなくて、何しよう何しようって思うのがすごくつらかった。じっと家にいるっていうのがいやで...ああ、また朝や...って。でも今は、毎日「あ、今日は作業に行ける」と思えて。楽しいです。皆と話が出来るし。幸せです。

娘さん:一日やることがないと先が見えなくて不安になるらしく、以前は毎日 「何したらいい?」って電話やメールが来てたんです。それが、行き場ができたことで、日常の流れができ、安定しま した。来たらやりがいもあって、楽しいし、おしゃべりもできる。おしゃべりがちょっと多いみたいですけどね(笑)

中西さん:通っているデイサービスでは、同じような病気のひとたちと一緒に話をしたり、塗り絵をしたりしていま す。年齢も皆同じくらいかな。私が一番若いくらいです。

娘さん:ここはデイサービスにはない楽しさがあるらしいです。パソコンは「自分にもできるんだ」っていう、優越感というか、自信ですか ね。手作業は「こんだけ私がやったんや!」って形になる...達成感がいいと。ここに居ると、すぐ時間が過ぎるそうです。去年の今頃はデイサービスもここも見つかっていなくて、いろいろ探していたんですよ。作業できる授産施設がないか、とか、元先生だったので児童館で何かお 手伝いできないか、とか。でも、家族の会なんかで相談していても、受け入れ体制が整ってなかったら、行ってもずっと誰かが横についてなきゃいけなかったりして、家族がしんどくなるよ、と。送っていって、本人だけで過ごさせてもらえるところはなかった。だからここが見つかって、とても助かっています。いくら「母は認知症ですから」ってお伝えしても、見た目にはわかりませんので、心配なことが多いですが、ここなら障害のある方への対応はよくご存じですし、安心感があります。なかなかこんな所はなかった。もう少し早く通い始めることができていたら、本人ができることもまた多かったかもしれないと思いますね。

「生きがい」を大切にしながら 誰にでも訪れる老いとの付き合いを
徳永さん:支援する中で、その人その人の言わば「全盛期」の環境に近づけるということを意識するようになりました。中西さんで言えば、学校の先生をしておられた時期ですね。職人の技が良い例ですが、「頭は忘れても体は覚えている」っていうことがある。記憶が薄れても、指先は覚えている、その感覚を取り戻していただけたらと。

板倉さん:認知症は、発達障害と違って進行していくもので、それをどうくい止めるかが問題です。薬も大切ですし、普段の生活の中での生きがい、やりがい、そうしたもので進行を遅らせることができる。そうして症状に付き合って 行くというのは、ある意味誰にでもある、老いと付き合うということでもありますね。 僕たちにできることとして、自分たちがどれだけ役に立っているかを感じてもらいながら、できるだけ早い段階から支援していくことが大事だと思っています。

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