寄付したのに税金がかかる? 盲点になりがちな「みなし譲渡所得」と、ぜひ活用したい税制優遇制度とは

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ご寄付の活かされ方 2021.9.26

寄付したのに税金がかかる? 盲点になりがちな「みなし譲渡所得」と、ぜひ活用したい税制優遇制度とは 寄付とは善意に基づいて無償で現金や物を提供することです。
しかし、金銭ではない土地・建物、株式、宝石、骨董品などを寄付する場合、「寄付する人」が納税しなければならないケースがあるのをご存じでしょうか。

寄付を受けた団体ではなく、寄付をする人が、です。
それはなぜでしょうか。

寄付をしなければ税金を納める義務が発生しないのに、寄付したら納めなくてはいけない。
今回は、そうしたケースと、ぜひ活用していただきたい税制優遇制度をご紹介します。


不動産を寄付すると、税金を払わなければいけない?

まず、実際にあったエピソードをご紹介しましょう。

まもなく80歳を迎える女性Aさんは、都市部のベッドタウンにある庭付きの戸建て住宅で一人暮らし。二人の娘さんは結婚してそれぞれ東京と大阪で家庭を営んでいらっしゃいます。

ご主人は数年前に他界し、相続は揉めることなく分割できました。
ただ、その相続の際に、娘さんたちは「もうこの家に帰ってくることはないと思う」と言っていましたので、Aさんは今のお住まいをどうするか考えていました。

Aさんのような方は、案外多いのではないでしょうか。

総務省が平成25年に実施した調査によると、全国の総住宅数6,063万戸のうち、空き家は820万戸で、総住宅数の13.5%に上っています。
空き家は過去10年間で1.5倍、過去20年間では実に2.1倍に増加しているのです。*1

出典:総務省(2019)「空き家対策に関する実態調査結果報告書」 p.3
https://www.soumu.go.jp/main_content/000595231.pdf


お子さんが実家を離れたご家庭では、Aさんのように、ご自分の死後、自宅と土地はどうなるのかと心配する方もいらしゃるでしょう。

Aさんがお住まいの土地は、Aさんのお父様が1950年代に購入した場所でした。ベッドタウンの一角ということもあり、売却できそうな場所柄ですが、父親から受け継いだ土地が自分の死後売られてしまうことには抵抗もあります。

それよりは、地域のために使ってもらった方が納得がいく。そう考えたAさんは近くの福祉団体に寄付することを考えました。

そこで、ご主人の相続の際にお世話になった税理士さんに相談したところ、
「不動産を寄付するとAさんに税金がかかるかもしれませんよ」
と言われ、すっかり驚いてしまいました。

売った際に税金がかかるならまだしも、寄付をするにも拘わらずAさんに税金がかかってしまうかもしれないとは、意外です。

それは、なぜでしょうか。


寄付をするのに税金がかかる「みなし譲渡所得」とは
納税義務の根拠

Aさんのように、寄付をしたとき、寄付者に納税義務が生じる場合があります。
それは、「みなし譲渡所得」という制度があるからです。*2

「譲渡所得」とは、「資産の譲渡による所得」のことですが、「譲渡」とは、「有償無償を問わず、所有資産を移転させる一切の行為」をいいます。

したがって、「譲渡」には、通常の売買のほかに、交換、競売、財産分与などさまざまなものが含まれ、寄付もそのうちのひとつなのです。
つまり、財産を寄付した場合、その財産を時価で譲渡したとみなされ、譲渡所得として課税されてしまうのです。

譲渡所得の対象となる資産

では、寄付をした場合に課税される可能性があるのはどのようなものでしょうか。

譲渡所得の対象となる資産とは、以下のようなものです。*2

土地、借地権、建物、株式等、金地金、宝石、書画、骨とう、船舶、機械器具、漁業権、取引慣行のある借家権、配偶者居住権、配偶者敷地利用権、ゴルフ会員権、特許権、著作権、鉱業権、土石(砂)など

なお、貸付金や売掛金などの金銭債権は対象から除かれます。


押さえておきたい「課税されない条件」

これまで納税義務が生じる「みなし譲渡所得」についてみてきましたが、土地や物品を寄付した場合に、必ず納税義務が生じるかというと、そうではありません。

では、どのような場合には課税されないのでしょうか。

「含み益」(資産の値上がり)がない場合
 
まず、そもそも譲渡所得が発生しない場合には課税されません。
譲渡所得は、「土地や建物を売った金額から取得費、譲渡費用を差し引いて計算します」。*3
したがって、譲渡所得は、以下のように表されます。

譲渡所得=売却(した場合の)金額 ー譲渡費用 ー土地や建物の購入代金 ー 取得費

「取得費」とは、土地や建物を買い入れたときの購入代金や、購入手数料など資産の取得に要した金額です。
「譲渡費用」とは、土地や建物を売るために支出した費用のことです。

わかりやすく言えば、譲渡所得とは「含み益」(=資産の値上がり)のことです。
したがって、寄付をしたときの時価から取得費や譲渡費用を引いたものの方が、買ったときの金額よりも安価なら、譲渡所得は発生しませんから、納税義務はないことになります。

「みなし譲渡所得」が発生する場合でも課税されない要件

「みなし譲渡所得が」が発生しても、課税されいない場合があります。
それは、次にあてはまるケースです。*4

(1) 国や地方公共団体に対して財産を寄附した場合
この場合は、何の要件もなく、また何の手続きも必要ありません。

(2) 公益を目的とする事業を行う法人に対して財産を寄附した場合で、以下の要件に該当することについて国税庁長官の承認を受けたとき

この場合は、寄附をした財産が、寄附をした日から2年以内にその公益法人の公益を目的とする事業のために直接使われるなど、一定の要件に該当することについて、国税庁長官の承認を受けなければなりません。

申請には、申請書の他に必要な書類を添付する必要があり、納税地の所轄税務署長を経由して国税庁長官に提出します。
この申請には期限があるので、注意が必要です。

なお、寄附をした日から2年以内に上の要件が満たされなかった場合には、国税庁長官の承認が取り消され、財産を寄附した方、あるいは財産の寄附を受けた公益法人に所得税がかかります。

こうした事情がありますので、「みなし譲渡所得」が発生するものを公益法人に寄附する場合には、寄附先と綿密な打ち合わせをする必要があります。

自宅を含む包括遺贈の場合

最後に、寄附財産にみなし譲渡所得の対象に該当する財産が含まれることがあっても、必ずしも課税されるわけではないことを押さえておきましょう。

それは、ご自宅を含む包括遺贈をする場合です。そうしたケースでは、必ずしも課税されるわけではありませんので、寄付先の団体と相談されることをおすすめします。


金銭以外の寄附をすることの意義

これまでみてきた「みなし譲渡所得」は、寄附をする方からしたら、なかなか納得しにくい税制です。

そのため、せっかく寄附を検討していた方でも、「みなし譲渡所得」がハードルとなって、寄附をためらわれる場合もありますし、最悪の場合には、寄附をとりやめられた方も実際にいらっしゃいました。

では、それでも金銭以外のものを寄附する意義はどこにあるのでしょうか。

たとえば、こんな事例がありました。
京都には平安時代中期に起源をもつ町家文化があります。 *5:p.4

ご寄附を検討されていた方は、何代にもわたって受け継がれてきた町屋にお住まいで、京町家の文化を今後もなんとか継承していってほしいというご希望をお持ちでした。

しかし、地価が高いため、寄附した場合には、こうした資産は「みなし譲渡所得」に該当してしまいます。
そこで、京都市と相談し、文化遺産として活用するという条件で、同市に寄附なさいました。
先ほどみたように、地方公共団体に寄附した場合には、税制優遇制度が適用され、税金はかかりません。

その際、古い家財道具一式も文化財の一部として寄附したいというお気持ちでしたが、京都市では受入れが難しかったものの、それらについても別の手段でご寄附が可能になりました。

金銭以外の財産を寄附したくても、「みなし譲渡所得」に該当するからと寄附そのものを諦めてしまうのは、なんとも残念なことです。
京町屋の例からもわかるように、遺産の寄附は、最後の自己実現ともいえます。

税制優遇制度を利用するなど、寄附によって税金を払わなくてもいい方法がありますので、クライアントから金銭以外の寄附についてご相談を受けた場合には、こうした点にも留意して、専門家へのご相談にぜひつなげていただけたらと思います。


 資料リスト

*1
総務省(2019)「空き家対策に関する実態調査 結果報告書」
https://www.soumu.go.jp/main_content/000595231.pdf

*2
国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm

*3
国税庁「No.3202 譲渡所得の計算のしかた(分離課税)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3202.htm

*4
国税庁「No.3108 国や地方公共団体又は公益を目的とする事業を行う法人に財産を寄附したとき」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3108.htm

*5
京都市「京町屋のいろは」
https://www.city.kyoto.lg.jp/tokei/cmsfiles/contents/0000264/264739/web.pdf

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