共有名義の不動産は寄付できるのか

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ご寄付の活かされ方 2021.10.26

共有名義の不動産は寄付できるのか 共有名義の不動産は寄付できるのか? 実現のための方法と税務とは
「寄付したい不動産があるのですが、共有名義なんです。それでも寄付できますか?」
そんなお問い合わせを数件いただきました。

共有名義の不動産を寄付するなんて無理だろうと、どこにも相談しないまま寄付を諦めた方もいらっしゃるのではないでしょうか。
確かに、複数人で所有している不動産を遺贈寄付する場合には、寄付者側・受け入れ側それぞれにさまざまな法律が関わってきます。

では、共有名義の不動産は寄付できないのでしょうか。
実は、そんなことはありません。
共有名義人が寄付に賛同しないという障害を克服して、ご希望どおり寄付を果たされたケースもあります。
それはどうやって実現させたのでしょうか。

本記事では、共有名義の不動産を実際に遺贈寄付された方の事例と、その際の注意点についてご説明を進めて参ります。


寄付が実現するまでの道のり

早速、事例をみていきましょう。

寄付者の状況

Aさんは戸建て住宅に1人でお住まいでした。
ご両親は既に他界され、配偶者やお子さん、ご兄弟もいらっしゃいませんでした。

「自宅と土地を寄付して、少しでも社会のお役に立てたら・・・」
相続人のいないAさんの中でそんな想いが膨らんでいきました。

遺贈寄付を決めたAさんでしたが、問題がひとつありました。
実は、自宅の建物は単独名義で100% Aさんの所有でしたが、土地はいとこのBさんとCさんとの共有名義だったのです。
持ち分はAさんが半分で、残りの半分はBさんとCさんが半々ずつ、つまり、Aさん2/4、BさんとCさんが1/4ずつという配分でした。

Aさんは、BさんとCさんに遺贈寄付をしたいと伝えました。
すると、Aさん同様相続人がいないBさんはすぐに賛同してくれたのですが、配偶者とお子さんのいるCさんはその案に難色を示しました。

悩んだAさんが寄付先に相談したところ、
「不動産の寄付は受け入れられます。ただし、最終的に私共の組織が100%所有する状態にしてください」
という回答が得られました。

Aさんは自宅と土地を寄付することができることにひとまず安心し、寄付先の条件をクリア
する方法を考えました。

さて、AさんはどうやってCさんを説得したのでしょうか。

寄付が実現するまでのステップ

結論を先取りすると、AさんはCさんから土地の共有部分を固定資産税評価額相当額で買い取りました。
その結果、懸案だった土地の所有状況は、Aさんの共有持分が3/4、Bさんの共有持分が1/4となりました。

この段階で、Aさんが寄付を申し出ると、寄付先の団体は理事会を開き、Aさんからの寄付の受け入れを決議しました。
その結果を受けたAさんとBさんは、それぞれ寄付する旨を記した公正証書を作成し、遺贈寄付が実現することになったのです。

では、こうしたステップを、それに伴う税務と関連付けて整理してみましょう。

<ステップ0>
● 自宅はAさんの単独名義
● 土地はAさん2/4、Bさん・Cさんがそれぞれ1/4の共有名義

 ⇒ 寄付先から「不動産は受け入れる。ただし、最終的に私共の組織が100%所有する状態にしてください」と言われる


<ステップ1>
● AさんはCさんの共有持分を固定資産税評価額相当額で買い取った。

 ⇒ Aさんの共有持分が3/4、Bさんの共有持分が1/4に

税務:Cさんに「譲渡所得」が発生
❖ 「譲渡所得」とは、土地や建物の譲渡による所得です。

譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき) *1


<ステップ2>
● Aさん・Bさんが遺贈寄付をした。

Aさん・Bさん関連の税務:寄付に伴い、「みなし譲渡所得」が発生
❖ 寄付も「譲渡所得」の一種とみなされます。

国税庁「譲渡所得の対象となる資産と課税方法」 *2
 
Aさんの寄付に伴い適用された特別控除:Aさんは、寄付したのがご自宅だったため、「居住用財産を譲渡した場合の3,000万円の特別控除の特例」を受けることができ、譲渡所得は0円。

国税庁「マイホームを売ったときの特例」 *3


寄付の実現に向けて

以上、一般には難しいと考えられている共有名義の不動産が遺贈寄付された事例をご紹介しました。

遺贈寄付には寄付者側、受け入れ側のさまざまな法律が関わってきます。
また、Aさんのように、共有名義人が寄付に賛同してくれない場合もあるでしょう。
しかし、諦める必要はありません。

この事例では、寄付実現に向けて寄付者と寄付先団体とが繰り返しコミュニケーションを重ねた結果、寄付受け入れの合意が得られました。

この事例のように、実現させる方法を模索・検討し、関係者と協力体制を築きながら粘り強く取り組むことによって、難しいと思われる遺贈寄付を実現し、寄付者の方の想いを叶えることができるのです。

ただし、受け入れ団体の法人格によっては法的な規制があり、そもそも寄付が受け入れられない可能性もありますので、注意が必要です。
そうしたことも含め、共有名義の不動産の寄付を考えていらっしゃるクライアントをお持ちの方は、専門家に相談されることをお勧めいたします。


資料一覧

*1
国税庁「No.1440 譲渡所得(土地や建物を譲渡したとき)」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/shotoku/1440.htm
*2
国税庁「No.3105 譲渡所得の対象となる資産と課税方法」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3105.htm
*3
国税庁「No.3302 マイホームを売ったときの特例」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/joto/3302.htm

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