農地の寄付

ご寄付の活かされ方 詳細

ご寄付の活かされ方 2021.11.16

農地の寄付 日本では農業就業者が減少する一方です。
その背景には後継者不足という深刻な問題が横たわっています。
農地を相続なさった方の中にも、その維持管理が難しいことに頭を悩ませている方がいらっしゃるかもしれません。

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図について、左から
・図1 基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)数の推移
・図2 経営継承の意向及び後継者の有無
・図3 農業を継承しない理由
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しかし、農地はご先祖代々受け継いできた大切な土地。その大切な土地を農地のまま活かすために寄付をなさった方もいらっしゃいます。

農地は宅地と違って、売買や寄付などによって所有権を簡単に移転することができません。
では、一体どうやって寄付を実現したのでしょうか。


農地の寄付を実現した事例

寄付に至った背景

農地を遺されたのは、50代のAさん。生前はご自宅で母親と同居していらっしゃいました。
Aさんは生涯独身で、法定相続人は80歳を超える母親と妹1人の2人。
Aさんの遺産には、現金などの他に父親から相続した農地約1,000㎡が含まれていました。

妹が遺産相続を放棄したため、相続人は母親1人になりましたが、高齢のため農地を相続しても維持管理は難しい状態でした。
そのため、母親は相続した農地の寄付を検討することにしました。

しかし、農地を寄付するには税法上難しい問題があります。
では、一体どうやって寄付を実現したのでしょうか。

農地を寄付する際の税法と手続き

農地を寄付すると、所有権が寄付先に移転することになります。
しかし、農地の所有権移転に関しては厳しい法的制限があります。
なぜなら、国土が狭く、しかも森林が国土の3分の2を占める日本では、農業を営むための農地を確保する必要があるからです。*1
これは、食料の安定的な供給を図るという、私たちのライフラインに関わる重要な問題です。

ただし、「農地法施行令」の第一章第二条(農地又は採草放牧地の権利移動の不許可の例外)の「第一項 ハ」には、例外として以下が示されています。*2

教育、医療又は社会福祉事業を行うことを目的として設立された法人で農林水産省令で定めるものがその権利を取得しようとする農地又は採草放牧地を当該目的に係る業務の運営に必要な施設の用に供すると認められること。

つまり、これに該当する法人であれば、農地の寄付は可能だということになります。

しかし、一方で、「農地法」の第二章第三条(農地又は採草放牧地の権利移動の制限)には、農地の所有権を移転する場合には、農業委員会の許可を受ける必要があることが明記されています。*3

したがって、農地の権利移動が例外として許されている法人が農地の寄付を受け、耕作目的でその農地を所有しようとする場合でも、個人の場合と同様、農業委員会の許可が必要なのです。

この事例では、寄付が可能な法人を探し、さらに農業委員会から許可を得て、寄付が実現しました。
このように、農地の寄付を実現する過程では、寄付の受け入れ先だけでなく、農業委員会の協力も欠かせません。


農地寄付の社会的意義

上の事例のように、農業委員会の許可を得るという手続きは必要ですが、農地を寄付し、それがそのまま農地として活用され続けることには、大きな社会的意義があります。

農業従事者の減少と後継者不足

まず、農業従事者数の推移をみましょう(図1)。


図1 基幹的農業従事者(ふだん仕事として主に自営農業に従事している者)数の推移
出典:農林水産省(2021)「2020年農林業センサス結果の概要(確定値)https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/noucen/2020/index.html

図1のように、年齢階層別に基幹的農業従事者数をみると、2020年(令和2年)は2015年(平成27年)に比べて85歳未満の全ての階層で減少しています。*4

また、高齢化も進み、2021年の基幹的農業従事者数130.2万人のうち65歳以上の高齢者が全体に占める割合は約70%に上ります。*5

では、後継者はいるのでしょうか(図2)。*6:p.1


図2 経営継承の意向及び後継者の有無
出典:農林水産省(2021)「農林水産統計 令和年度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査 農業経営の継承に関する意識・意向調査結果」p.1
https://www.maff.go.jp/j/finding/mind/attach/pdf/index-66.pdf

現在の農業経営を継承する意向を持っている人は約50.1%ですが、後継者が決まっているのは40.1%です。
一方、継承を決めていないという回答が34.6%、何も継承しないという回答が7.8%であることから、今後、農地の継承がスムーズに進まないことが予想されます。

では、継承しないと答えた人の理由は何でしょうか(図3)。*6:p.4


図3 農業を継承しない理由
出典:農林水産省(2021)「農林水産統計 令和年度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査 農業経営の継承に関する意識・意向調査結果」p.4
https://www.maff.go.jp/j/finding/mind/attach/pdf/index-66.pdf

現在の農業経営を何も継承しない理由では、「地域に農地の受け手となりうる農業者がいないため」と回答した割合が 29.6 %と最も高く、次いで「地域に農地の受け手となりうる農業者はいるが、これ以上農地を引き受けきれない状態のため」が24.1%となっています。

以上のことから、今後は上でみた事例のように、農地を相続してもその土地の維持・管理が難しいケースが増えていくことが予想されます。
また、それ故に、そうした農地を寄付し、農地として活用し続けることができれば、それは農地を確保することに繋がるという社会的意義もみえてきます。

生産緑地における農地の寄付

最後に、農地を寄付することの社会的な意義に関連して、生産緑地における農地の寄付についてみていきましょう。

生産緑地制度とは、「良好な都市環境を確保するため、農林漁業との調整を図りつつ、都市部に残存する農地の計画的な保全を図る」ことを目的としたもので、市町村は、市街化区域内の農地で、次に該当する区域を生産緑地地区に定めることができるというものです。*7

1. 良好な生活環境の確保に相当の効果があり、公共施設等の敷地に供する用地として適しているもの
2. 500m2以上の面積
3. 農林業の継続が可能な条件を備えているもの

ただし、2016年(平成28年)には上記2の「生産緑地地区の面積要」を引き下げることが閣議決定されるなど、より活用しやすい制度へと改正されています。

この制度では、農業の主な従事者が死亡した場合などには、生産緑地の所有者が市町村長に対してその生産緑地を時価で買い取ってもらうことを申し出ることができることになっています。*9
ところが、少なくとも首都圏では、こうした買取請求をしても、実際に買い取ってもらえることはごく少ないという調査結果があります。*10:p.140

では、自治体が買い取りに応じない場合、その農地はどうなるのでしょうか。
その場合、その農地は生産緑地でなくなり、税制的に宅地並の課税になるため、相続人の税負担は大きくなります。

そうなった場合、相続人の選択肢は、一般に、税金を納めるためにアパートあるいはマンション経営をするか、あるいは売却してしまうかの二者択一になりがちです。

しかし、ここで、第3の選択肢として寄付をと考えられる方もいらっしゃいます。
もし寄付が実現すれば、祖代々受け継いできた土地を農地のまま遺すことができ、さらに地域への貢献も果たせるからです。

生産緑地内の農地についても、こうしたポテンシャルがあることを是非お心に留めていただければと思います。


おわりに

これまでみてきたように、寄付した農地が農地として活用され続けることは、農地の確保、さらには食料の安定的な供給に繋がり、重要な社会的意義をもちます。

農地の寄付には今回ご紹介した事例とは異なるケースも考えられます。
農地だから実現できないと諦めず、専門家に是非ご相談いただき、有効な農地活用を実現されてはいかがでしょうか。


資料一覧

*1
農林水産省「農地取得にかかる基礎的知識」
https://www.maff.go.jp/hokuriku/keiei/pdf/nouchi.pdf
*2
e-GOV「昭和二十七年政令第四百四十五号 農地法施行令」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327CO0000000445
*3
e-GOV「昭和二十七年法律第二百二十九号 農地法」
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=327AC0000000229
*4
農林水産省(2021)「2020年農林業センサス結果の概要(確定値)(令和2年2月1日現在)」(令和3年4月27日)
https://www.maff.go.jp/j/tokei/kekka_gaiyou/noucen/2020/index.html
*5
農林水産省(2021)「農業労働力に関する統計」
https://www.maff.go.jp/j/tokei/sihyo/data/08.html
*6
農林水産省(2021)「農林水産統計 令和2年度 食料・農林水産業・農山漁村に関する意識・意向調査 農業経営の継承に関する意識・意向調査結果」
https://www.maff.go.jp/j/finding/mind/attach/pdf/index-66.pdf
*7
国土交通省「公園とみどり 生産緑地制度」
https://www.mlit.go.jp/crd/park/shisaku/ryokuchi/seisan/
*8
国土交通省「生産緑地法等の改正について」
https://www.mlit.go.jp/common/001198169.pdf
*9
国税庁(2021)「No.4626 生産緑地の評価」
https://www.nta.go.jp/taxes/shiraberu/taxanswer/hyoka/4626.htm
*10
渡辺貴史・大村謙二郎・横張真榊(2003)「首都圏地方自治体における生産緑地法の買い取 り請求と追加指定に関する運用実態の検討」(都市住 宅学43号2003 AUTUMN)
https://www.jstage.jst.go.jp/article/uhs1993/2003/43/2003_138/_pdf

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